ミャンマー人と日本人との婚姻について 

-法律的背景-

2005年12月18日 UPDATE

ミャンマー人と日本人との婚姻について専門的な立場からまとめられた文章を、ヤンゴンのトゥレイン法律会計事務所事務局の春日さんよりご提供いただきましたのでご紹介させていただきます。

U-Zeekwyetは、著者春日氏からのご提供を受けて本HPに紹介してます。下記の文章の著作権は、春日氏に帰属します。当著作物は、「私的使用」又は「引用」など著作権法上認められた場合を除き、無断で転載、複製、放送、公衆送信、翻訳、販売、貸与などの利用をすることはできません。

トゥレイン法律会計事務所

事務局 春 日  忠

(一)原則論

1.日本の法律から見た婚姻

①日本人同士が婚姻を行う場合には、男は満18 歳以上で、女は満< span lang="EN-US">16歳以上で、他に婚姻していないこと。近親婚でないこと、養子縁組などを行っていないこと、未成年者である場合には、父母の同意を必要であって、(日本国民法第731条から第 738条) 婚姻は、戸籍法の定める届け出(婚姻届)をすることで(日本国民法第 739条)、婚姻は成立します。これを創設的婚姻届と言います。

②外国人との婚姻については、日本国法例第13条第1項によって、「婚姻成立ノ要件ハ各当事者ニ付キ其本国法ニ依リテ之ヲ定ム」となっていて、外国人が結婚を行える条件は、その外国人が国籍を有する国(この場合では、ミャンマー)の法律で条件が定められるのです。また、同条第2項では、「婚姻ノ方式ハ婚姻挙行地ノ法律ニ依ル」となっていて、日本で結婚する場合には日本の法律、ミャンマーで結婚する場合にはミャンマーの法律が適用されることになります。

③そこで、ミャンマーでミャンマーの法律によって婚姻を挙行した場合には、その時点で婚姻が成立し、これを日本の戸籍に記載するために提出する婚姻届を「報告的婚姻届」と呼びます。

④以上を、法律で定められている婚姻と言うことで、「法律婚」と呼びます。


2.ミャンマーでの婚姻に関する法律

①ミャンマー人の婚姻に関する法律は、宗教によって別々に定められています。現在ミャンマーで効力を有している成文法(文章として書かれた法律)は、

(1)   The Buddhist Women Special Marriage and Succession Act, 19541954年仏教徒夫人特別婚姻相続法)(1954年法律第32号)

(2)   The Hindu Widow’s Re-Marriage Act(ヒンズー教徒婦人再婚法)(1856年インド法第15号)

(3)   The Anand Marriage Act((ヒンズー教)アナンド派婚姻法)(1909年インド法第9号)

(4)   The Kazis Act((イスラム教)カジス法)(1880年インド法第12号)

(5)   The Parsi Marriage and Divorce Act(パルシー教徒婚姻及び離婚法)(1936年インド法第3号)

(6)   The Christian Marriage Act(キリスト教徒婚姻法)(1872年インド法第15号)

(7)   The Special Marriage Act(特別婚姻法)(1872年インド法第3号)

 と、それぞれの宗教によって婚姻の資格や条件と手続が異なってくるのです。

②但し、非常に大切なことですが、ミャンマー人の大多数を占める仏教徒の普通の婚姻に関する成文法は、ありません。そこで、どうなるかと言いますと、Myanmar Laws Act(ミャンマー法例:1898年インド法第13号)第13条に、以下のように定められています。

「第13条 ミャンマー連邦内における訴訟又は法的手続にい���、継承、相続、婚姻若しくはカースト階級、又は宗教的慣習若しくは制度に関しての考慮が必要となった場合、下記の各号の法規が、その法律が法規より変更若しくは廃止、又は法的効力を有する慣習に反する場合を除き、判断規則を構成しなければならない。

(a)  仏教関係者である場合には仏教徒法

(b)  回教関係者である場合には回教徒法

(c)  ヒンズー教関係者である場合にはヒンズー教徒法

②(本項削除4502)

③第1項又は現に効力を有する法規に定めのない場合、判断は、正義、公正及び良心によってなされなければならない。」(当事務所翻訳「Myanmar Code, 2004」より)

 ここで言う、仏教徒法とは仏教徒が使用している慣習法(文章として書かれていない法律)です。この慣習法については、ダンマッタDhanmathatsと呼ばれるビルマ王朝時代の法典を中心に、いくつかの法典としてまとめられています。


3.ミャンマーの仏教徒の婚姻

①ここで、ミャンマーの仏教徒の婚姻成立要件について、まとめてみます。

 年齢について、Majority Act(成人法:1875年インド法第9号)では、満18歳で成人とされますが、慣習法典では、

(1)   的確年齢について、女性は満16歳になれば、婚姻を成立させることができます。しかしながら、満20歳以上であれば、親や家族の同意を必要とせずに、自らの意思で婚姻を成立させることが可能となります(1948 Burma Law Report 625)。男性については、満16歳で、婚姻を成立させられます(1925年ラングーン高等裁判所判例)。ただ、女性と同様に満20歳にならなければ、親の管理を必要とするとダンマッタに述べられています。

(2)   近親婚について、ダンマッタに於いて禁止されています。

(3)   重婚について、女性は、その他の婚姻がなされている場合には、新しく婚姻を成立させられません。男性は、第一夫人の許可があれば、第二夫人との婚姻を成立させることが可能です。

(4)   ただ、仏教徒法においては、完全な合意により成立させるために、精神異常者などの行為不能力者は、婚姻を成立させることができません。

②婚姻の手続に関しては、合意だけで、世俗的か宗教的かを問わず、儀式も必要とされません。つまり、夫婦だと宣言して「向こう三軒両隣」が認めれば、それだけで婚姻が成立してしまいます(これを「事実婚」と呼びます)。但し、婚姻の証明としては、「夫と呼ばれる者が、妻と呼ばれる者を、妻の地位を明確に与える取り扱い、妻も妻の地位を明白に主張し、夫婦として民衆が取り扱う関係」によって、証明されます。

③つまり、何らの証明書の発行も必要ないのですが、これでは、日本側の戸籍に記載することが不可能なわけです。

④近年のヤンゴンなど都市部の若者たちにおいては、「婚姻宣誓供述書」の作成が、多くなってきています。通常、この婚姻宣誓供述書には、証人として近隣の人々の署名と、何らかのオサ(長老)とされる人の署名があれば、有効となりますが、特に裁判官や地区の平和発展評議会議長の署名がなされるのが確実であることは、明白です。

⑤これらの「婚姻宣誓供述書」手続がなされない場合、婚姻そのもの自体は有効ですが、その婚姻を証明する文書がなく、いつ婚姻が成立したのか、果たして有効に婚姻が成立しているのか、確認することが困難です。特に第一夫人である女性の場合、第二夫人との婚姻を否認する権利を有しているわけですが、この権利を行使することができず、また、配偶者の死亡時の財産分与においても、不利益を被ることとなります。

⑥そこで、「婚姻宣誓供述書」が作成されなかった婚姻に於いて、紛争が発生した場合に、この婚姻を法律的に認めされる手段の一つとして、「婚姻請求訴訟」又は「婚姻確認訴訟」を裁判所に訴える方法が取られます。この民事訴訟の判決によって、確定的に婚姻が成立又は否認され、それ以降の婚姻が確定的に成立します。

⑦なお、200410月に、ミャンマー人女性と外国人男性との間の婚姻については初めて、この訴訟が行われ、ミャンマー仏教徒法に基づき有効な婚姻であるとの判決書が発行されました。

 


4,まとめ

     以上、法律的な原則論を見てきましたが、要するに、婚姻を行う当事者二人とも、満20歳以上であり、通常の精神を有しており、未婚であり、異教徒でなければ、双方の要件を満たし、婚姻を有効に成立させることができます。

 

(二)手続について

1.日本で婚姻を成立させるには

①日本で婚姻を成立させるには、(一)で述べた要件を満たすのか、それと当事者が誰であるのかを、特定させなければなりません。そこで、何を調べるかと言うと、何国籍の何年何月何日生まれの誰であり、未婚であって通常の精神を有しているかです。それの確認のために必要となる書類が、

②日本人であれば、戸籍のみで足ります。「戸籍に記載されている者」であれば、日本国籍であって、生年月日や未婚であるかについて、全てが記載されているからです。

③次に、ミャンマー人ですが、

(1)   国民登録証」によって、ミャンマー市民であることを認し��、生年月日や父の名前を確認します。

(2)   家族登録証」によって、宗教や生年月日、家族関係などを確認します。

(3)   婚姻要件具備証明書」によって、未婚であることや生年月日、父の名前を確認します。

(4)   ただ、国民登録証や家族登録証の生年月日がビルマ暦で記載されている場合や、満18歳以上で国民登録証が発行されることで、時々誤った記載がなされることがあり、この場合には、生年月日の特定のために「出生証明書」の提出が求められることがあります。

(5)   また、上記の書類は、本来であれば原本を提示しなければなりません。しかし、国民登録証や家族登録証などは、ミャンマー人が肌身離さず身に付けていなければならないものですから、それに代わるものとしてミャンマーで「公証翻訳証書」を作成します。この公証翻訳証書によって、原本に代わるものとして取り扱ってもらうことになります。また、これらの原本のコピーや公証翻訳証書は、その後の手続でも必要となりますので、必ずコピーをとって「原本還付」の手続を受けて下さい。

(6)   以上の書類の提出について、最近確認できたところでは公証弁護士が作成した「独身証明書」と「家族登録証」、「パスポートの写し」、の添付によって、「創設的婚姻届」を受理して差し支えないとされています.(平成7年9月14日付民二第3747号法務省民事局第二課長回答)

④以上の書類が揃ったら、創設的婚姻届を日本の市町村役場に提出します。但し、これらの書類を審査するのは、本籍地の市町村役場です。本籍地の市町村役場が、原則の法律を知らない場合、それを管轄する法務局や地方法務局に照会を出すことになり、法務局や地方法務局で分からない場合には、法務省民事局第二課に照会を出して、最終的な判断を求めることになります(これらの照会された内容などについては、「戸籍・国籍先例通達集」として、日本で出版されています)。

⑤つぎに、ミャンマー人の名前に「姓」が無いことに、戸惑う役所があると思いますが、これについては、日本の役所にはおいてあると思いますが、「民事月報」と言う書籍の第40巻第10122ページに記載されているので、参照してもらうと良いでしょう。

ここで、非常に重要な問題が生じます。

①平成7年の通達によって認められている「婚姻要件具備証明書」について、ビルマ語本文の意味は、「下記の要件を満たしていれば、婚姻することができる」となっていますが、同通達では「下記の要件を満たしており、婚姻することができる」と、明確な誤訳がなされており、それを法務省が認めていることです。

②また、ミャンマー国内の公的機関で「婚姻要件具備証明書」を発行できるのは、現在のところ区平和発展評議会のみであり、弁護士や公証人の発行した文書は、あくまでも正式文書ではないのです。加えて、平成7年の通達に関する解説では「第三者による証言」が有効であると明言されているにもかかわらず、日本の市区町村役場では、通達を厳格に解釈して弁護士作成の、(上記の全く意味のない)文書を必要とするような、無理解な役所が数多く存在します。

③それ以上に問題なのが、その解説に記されている「同居していること」を、婚姻関係を確認する要件として捉えずに、婚姻を創設する要件として捉えている役所があったということです。つまり、婚姻をする前に同居して「婚前交渉」しなければ、婚姻を認めないとの方針です。婚姻を成立させて、日本で同居しようとする当事者達にとって、無理難題と言う他ありません。
 日本の査証手続きにおいて、日本人との身分関係でも存在しない限り、ミャンマーに住む婚約者を日本に招聘すること自体が非常に困難ですし、ましてやミャンマーで非常に反社会的といわれている「婚前交渉」を強要するなど、非人道的な取り扱いとしか言いようがありません。

④加えて、弁護士又は公証人が作成した「婚姻宣誓供述書」を、ミャンマーでの婚姻が成立したことを証明する書類として、受理する役所がありますが。この「婚姻宣誓供述書」については、外国人男性とミャンマー人女性に関しては1998年司法長官通達第5号により、発行禁止にされている文書です。つまり、ミャンマー連邦内において、全くの偽造文書です。

上記4点について、法務局や地区町村役場はもっと勉強する必要があるのではないでしょうか(まあ、世界で200ヶ国近く存在する現在、全ての国の法令を把握することは困難でしょうが)。


2.ミャンマーで婚姻を成立させるには 

①(一)の原則論で述べましたが、宗教によって手続が異なります。

     そこで問題となるのが、1998年に出された司法長官(日本の法務大臣に相当)通達と、最高裁判所通達の2本です。この通達によって、外国人男とミャンマー人女との婚姻を認めてはならないとされてしまい、その後ミャンマー人男と外国人女についても認めてはならないとの通達が発せられました。そして、現在では、ミャンマーの裁判所では限られた例外を除いては「婚姻宣誓供述書」の作成と登録を行っていません。但し、この婚姻要件具備証明書の提出ができるのであれば、これを日本側で婚姻届と一緒に提出することによって、日本側では婚姻届が受理されます(昭和50227日付民二第994号法務省民事局長回答)

     ただ、この「婚姻宣誓供述書」が、一部発行されたとの話を聞きますが、これらが明るみになると担当した判事は公職を追放され、「人身売買」の容疑をかけられる事になります。また一3④で書きましたが、一部では居住区平和発展評議会議長が作成した場合も、同様です。つまり、日本の役所で求めている「婚姻宣誓供述書」の作成は、事実上不可能となっています

     ただ、判事や議長を買収すると言う手はあるかとは思いますが、これらが、その後ミャンマー政府の影響がある事柄に於いて、どのような悪影響が出てくるかについては、判断がつきかねます。

     また、現在その他の方法でのミャンマーでの婚姻の成立について、当事務所では法的手続を行っています。その方法が有効であるとの最高裁判事のお話も伺っておりますが、結果を見極めた上で、お知らせするか否か、判いたし���す。


3.キリスト教徒の婚姻 

  1. キリスト教徒の場合、The Christian Marriage Act(キリスト教徒婚姻法)が適用されることは、原則論のところで述べました。
  2. キリスト教徒の婚姻承認権限は、国家平和発展評議会議長(連邦大統領)から、告示によって、免許を受けた牧師又は司祭が持っています(キリスト教徒婚姻法第6条)。ただ、その登録については、平和発展評議会議長から任命を受けたキリスト教徒が登録官として、事務所を構えられる(同法第7条)ことになっています。
  3. その手続については、婚姻当事者が婚姻に関する事項の公示を作成して牧師又は司祭に提出し(同法第12条)、牧師又は司祭がそれを教会内に掲示して(同法第13条)、相当である場合には、登録官に提出して、「婚姻証明書」を発行させることになります。つまり、裁判所や平和発展評議会議長の発行ではないことが、ミソです。
  4. 但し、キリスト教徒では満21歳以上が成人であり、それ未満の者は、親か保護者、母の順番での誰かの合意が必要とされます。

1.夫婦の場合 

  1. 婚姻によって、国籍の変動はありません。
  2. 日本の国籍法では、日本国籍の婚姻による得失について特に規定がありませんが、第4条第1項で、「日本国民でない者(以下「外国人」という)は、帰化によって、日本の国籍を取得することができる。」と定められていて、帰化手続を行わないで、日本国籍を取得することはできません。
  3. ミャンマーではThe Myanmar Citizenship Law(ミャンマー市民権法:1982年人民議会法律第4号)第15条で、第1項で、「市民は外国人との婚姻のみにより市民権を喪失しない。」第2項で、「外国人は、市民との婚姻のみにより市民権を取得しない」。
  4. つまり、婚姻したからと言って、国籍が変わることはありません。

2.子供の場合 

  1. 日本の場合,子は、出生の時に父又は母が日本国民であるとき、日本国民となります(日本国籍法第2条第1号)。つまり、両親のどちらかが日本人であれば日本国民です。
  2. ミャンマーの場合、両親共にミャンマーの市民か準市民、帰化市民権を有しない限りミャンマー市民となることはありません(ミャンマー市民権法第7条)。
  3. つまり、日本人とミャンマー人との間に生まれた子供は、日本国籍のみ持つことになります。
  4. ただ、ミャンマー連邦政府は、全ての市民を登録しているわけではなく、子供が満10歳になった日から1年以内に出生登録をする(ミャンマー市民権法第9条)ことで、かなりの時差があることから、例外的取り扱いが生じる可能性があり得ます。
  5. 次に、不幸にして結婚できなかった男女間の子供について、更に不幸なことに、認知の方法を述べている個所を発見できていません。実際的には、ミャンマーで出生した場合には、ミャンマーの出生証明書に父親記載欄があるので、そこに父親が記載されれば、認知と同等の効力を有するというのが、一般的な見解です。では、日本で出生した場合には? 今後の判例を待つしかありません。
  6. 但し、実務的には、子供が胎児である状態で、父親が認知届を日本大使館か市町村役場に提出(「胎児認知」と言います)することによって、日本国籍が認められています。

以上


HOME